猫を拾う
伊織

職場をいちばん最後に出て
終電間際の電車を降りて
昨日と明日のあわいを歩いていた


街道沿い
歩道の隅
長い手足をきゅっと折り畳んで
体育座りでそこに居たんだ




白いパーカーは思いの外薄く
差し出したホットココアにもまだ警戒を緩めない
ふわりと一枚
フード付きのタオルを被せて
ようやくマグカップを握った指は
陶磁器のそれだった


セミダブルを明け渡し
フローリングから見上げると
羽毛布団をぐるぐる巻きにして
壁に身体を押し付けた
丸い背中




トーストの匂いで目が覚めた
テーブルに並ぶミルクと目玉焼き
「自分のことは、自分でやります。」
くるりと背を向けるが
漂ってくるのは
コーヒーの香り


また終電で帰ると鍵は開いていた
フローリングにくるんと
フード付きのタオルを掛けた
丸い背中
起こさずに抱きかかえる自信がなかったので
布団を被せた




こうして数日
背中だけを見ながら過ごす
ときどき
酸味の強くなるコーヒー




ようやく休みの取れた日に目を覚ますと
テーブルに並んだコーヒーと目玉焼きとトースト
少し冷めている
ミルクの匂いがするタオルが一枚
セミダブルに
表を上にして転がっていた


自由詩 猫を拾う Copyright 伊織 2013-06-07 22:25:13
notebook Home 戻る