無花果
中村 くらげ

夏が足を踏み入れる前の雨

冷たい丘の上に一人で立つと

懐かしい甘い匂いがした


まだ子供だった頃

よく遊んでくれた皺だらけの手を

思い出して

枯れてしまった無花果の木を眺めると

不意に泣きそうになる


あなたが残したその木は

今ではもう実を付けず

香りさえ薄れ

あなたさえ


大好きなあなたの寝顔が悪魔に見える

切なさと共に消え去れ

固くなるほど笑顔の頃のあなたが遠くなっていく

このまま消えないで


灰になった骨も木も

私を育む土に還る

大人になった体は

また一つの香りを

忘れては憶えていくのでしょう




自由詩 無花果 Copyright 中村 くらげ 2013-06-07 13:38:15
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