無花果
中村 くらげ
夏が足を踏み入れる前の雨
冷たい丘の上に一人で立つと
懐かしい甘い匂いがした
まだ子供だった頃
よく遊んでくれた皺だらけの手を
思い出して
枯れてしまった無花果の木を眺めると
不意に泣きそうになる
あなたが残したその木は
今ではもう実を付けず
香りさえ薄れ
あなたさえ
大好きなあなたの寝顔が悪魔に見える
切なさと共に消え去れ
固くなるほど笑顔の頃のあなたが遠くなっていく
このまま消えないで
灰になった骨も木も
私を育む土に還る
大人になった体は
また一つの香りを
忘れては憶えていくのでしょう