病床で
イナエ
体の中を這い回るヤスデのような生き物と
近くを流れる水の気配に目覚める
が 眼は閉じたまま
それでも見える
隣のテントから覗く逆三角形の顔
とがった鼻とスコップのような牙
ぼくを監視している眼の無い目
キャンプしているぼくらの
リーダーが天井を歩いて来る
逆さまのままぼくをのぞき込み
ぼくに繋がれた計器の目盛りを読み
導尿管から落ちた尿の量を確かめて
毛布の裾からはみ出した足をつかむ
ー大丈夫 たくさんの管に繋がれていて
この世から逃げ出せはしないからー
足をつかんだ手がはい上がってくる
驚愕するぼく
ーこんなときに…
ーリーダーの手じゃないのか…
けものの嘴が尿道に入り込み
快感なのか恐怖なのか
下腹部から発したさざ波が
冷たく背に広がる
ぼくは声にならない悲鳴を上げて目を開く
ランタンの淡い灯りに照らされた天井
藤棚のように枝が絡み合い
垂れ下がった蜘蛛の糸に絡まった埃の
花房がベッドに向かって降りてくる
ベッドは花房から逃げるように
ゆっくりと回転し暗い宙に落ちていく
リーダーの手のひらが足をつかんで
地球から落ちていくのを引き留める
遠く読経が聞こえる
ー誰かが亡くなったのだろうか
それはぼくぼくだろうか
そんなはずはない
ぼくはまだ足を?まれ
何本もの管に繋がれたままだー
眼の無い目と読経に送られ
再び暗い世界に沈み込んでいく