「花曇り」
桐ヶ谷忍

あたたかく降り積もった雪の下に埋めた
女になってしまう前の、
何でも言葉に出来ていた少女のわたしを

女になるというのは
自分が一番遠い他人のように感じる生き物に
なる事なのだ
女になったわたしは
薄暗いさみだれを落としながら
それを拾い上げてくれる誰かを
いつも求めていた
呟きでも、言葉に出来るなら救われるのに

落とした思いを重苦しく引きずりながら
歩む道程で出会ったあなたには影があった
あなたは光の真下にいた
影の出来ないわたしの空模様を面白がって
わたしの背後にあなたはしゃがみこんだ
何の種だろう、と容易く拾い上げて
掌に転がしてわたしに見せてくれた
わたしにも分からなかった

つないだ手の熱で
自分がどれだけ凍えていたかを知った
それもまた、女であるという証だった

あなたの真上には青空が
わたしの真上には曇天が
それでも、つないだその手のあたたかさが
あたたかさだけで

あなたは幾つもの種をいじったり埋めたり

朽ちた空色の下でも、
花は言葉もなく咲く



自由詩 「花曇り」 Copyright 桐ヶ谷忍 2013-06-05 21:53:46
notebook Home 戻る