「花曇り」
桐ヶ谷忍
あたたかく降り積もった雪の下に埋めた
女になってしまう前の、
何でも言葉に出来ていた少女のわたしを
女になるというのは
自分が一番遠い他人のように感じる生き物に
なる事なのだ
女になったわたしは
薄暗いさみだれを落としながら
それを拾い上げてくれる誰かを
いつも求めていた
呟きでも、言葉に出来るなら救われるのに
落とした思いを重苦しく引きずりながら
歩む道程で出会ったあなたには影があった
あなたは光の真下にいた
影の出来ないわたしの空模様を面白がって
わたしの背後にあなたはしゃがみこんだ
何の種だろう、と容易く拾い上げて
掌に転がしてわたしに見せてくれた
わたしにも分からなかった
つないだ手の熱で
自分がどれだけ凍えていたかを知った
それもまた、女であるという証だった
あなたの真上には青空が
わたしの真上には曇天が
それでも、つないだその手のあたたかさが
あたたかさだけで
あなたは幾つもの種をいじったり埋めたり
朽ちた空色の下でも、
花は言葉もなく咲く