まるでどこかにつながっているかのように
佐々宝砂

夢の中で川を下ったのと云ったら
ああそうなんだきみも下ったのかと
あのかたは云ったのだけれど
そういうあのかたは
夢の中で川を下ったことなどないのだと
わたしは知っていた

ほんとうのことを云えばわたしも
もう長いこと川の夢などみていない
けれどかつてわたしは確かにゆめみた

デパートの地下の
蛍光灯に照らされた川
その川をゆく靴のかたちをした舟
その舟に坐っていた少女
その少女が着ていた厚い黒地のワンピース
そのワンピースに刺繍されていた鮮やかな花束

わたしは今も思い出せる
川は闇に向かって滑ってゆき
舟に乗るわたしは川を下りゆき

ああ

わたしは知っている
あのかたはそれを見ていて
それがわかっていて
ゆったりと川を越えていった

川の向こう岸に何があるかわたしは知らない
たぶん永久にわたしはそこにゆきつかない

川は
まるでどこかにつながっているかのように
流れてゆくけれども
流れてゆくのだけれども


自由詩 まるでどこかにつながっているかのように Copyright 佐々宝砂 2004-12-31 02:17:45
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