夜に 夜に
木立 悟






指が鳥になり
ふたたび指になり
ふたたび鳥になる
そのくりかえしを
見つめている


眠る家々をまたぐ蟷螂
土にこぼれ 消える灯り
風が街に着せてゆく
街ではない街のかたち


流れの上の光と花
樹と樹と樹と樹を縛る蛇
ただひとりのための白
稲妻の名を数えている


骨の明るさ ふたつの径
押し花と池 花の足跡
歌えるものほど黙りこむ
音を失くした街の門


ささくれだった光が泳ぎ
右と左を平たく運ぶ
冬を冬にしまい忘れて
蒼は蒼の底に立つ


水に倒れた樹をわたり
衣の声はすぎてゆく
浪の路 石の路
まるい記号をのぞきこむ笑み


遠去かる点 遠去かる音
乳や夕べや 影の呼び声
誰もが顔だと言わぬ横顔
水を見つめつづけている


壁に床に階段に
鉱の光は起き上がる
曇のなかの 無数の新月
記憶のように浮き沈む


胸の柱をめぐるもの
金に緑に語るもの
片目の痛みの灯をつむり
もう片方を燃やすもの


文字を追えば 影は増える
網目のかたちに焼けた土
裏道をゆく背
光の背


むらさきの扉 むこう側の声
いつまでも踊り場から動かない
屋根へ屋根へ降りそそぐ粉
街の外に散ってゆく


砂の痛み 見つめる浜
指を鳥をくりかえし
記す間もなく消える傷
夜に夜にと響きながら
夜に夜にとまたたきながら


























自由詩 夜に 夜に Copyright 木立 悟 2013-06-05 09:29:48
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