恋と愛のあいだの何秒か
竜野欠伸

瞬きがまだ終わらないうちに
なくなってしまう
数知れぬ一秒にも
満たない想いがあるだろう
とは思うけれど

一瞬のあいだ瞬きをするうちに
恋の始まりはきっと
終わりのない愛になる

陽もまだ出ていないある朝に
まだ眠っている彼女の
うっとりとした寝顔が吐息をしながら
ずっと遠くのほうを
向いていた気がして
夜空の果てがなくなっていくまで
待っていたよ

記憶は巡っていく
二人でStudioに行ったときに
彼女が奏でる
Mozartを聴きながら
ふと伝えた言葉を思い出したよ
まだ出会って間もない頃
「すごく好きだよって
言ってもいい?」と
一緒に食事をしながら
話していたとき
眼鏡の奥にある彼女のまなざしは
とても澄んでいて

「うん、いいよ」と答えた返事には
きっとちょうどMozartの
第一楽章の最初の音が
始まるときのように声が
弾んでいたことがゆっくりとわかる

************************

丸い月の周りには
光の輪が明るく耀いている
ようやっと仕事も終わって
同じ駅で待ち合わせをして
ちょうど近くの公園の
大きな二本の樫の木の下で
夜霧のなかを二人でベンチに
深く腰を掛けていたら
アカペラサークルの青年たちが
少しずつ集まっている

発声練習をしながら
小走りに公園を廻りはじめる
まるで幾粒かの水滴が
集まって川に注ぎ海に
たどり着く大きな流れのように
霧の中で夜の合唱が始まる

夜霧は公園を
優しく包んでいて
彼女にそっと口づけをする

小さな幸せは
休日の予定のあいだにあって
秒針が止まってしまった
壁時計をそっと見るときのように
彼女のことを自分のように想う
そして自分のことを彼女に預ける

************************

哀しいことだけれど
二人はいつか大人になって
同じ病気にかかってしまった
そう永遠のうちにどちらもが
生きられなくなる運命だろう
あとどれぐらい生きても
ずっと治らない病気なのだから
彼女も僕も同じ薬を
これからも飲み続けるはずで

命の燃焼がとまっても
一緒に生きた証が愛になればいい
お互いには仕事があるけれども
二人が生きていく分だけでも
働ければいいと思う
決して生き長らえるためではなく
生を受けた地球に何か輝きを
残して生きていきたい
命ある旋律が停まる楽譜の
終止符を見つけるまでに

一瞬のあいだ瞬きをするうちに
恋の始まりはきっと
終わりのない愛になる

だから胸を熱くして
共に生きていこうと



自由詩 恋と愛のあいだの何秒か Copyright 竜野欠伸 2013-06-01 11:26:05
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
彼女に捧げる愛と感謝の詩集