図鑑に載らない動物
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辺りは静かで仄暗い
細かな気泡としなやかな水草だけが
照明の光を蓄えて揺れ動く
水槽の中を泳ぐアロワナは
夏の夜行列車に似ている

いつまでも眠れず、読書も捗らなかった
車窓に触れたゆびさきに
わずかな冷たさを残して
小さくて精巧な歯車の連なりみたいに
本を置き、もういちど眠ろうと姿勢を崩した

水槽のガラスに僕の顔が映っている
そこを悠然と横切ってゆくアロワナを
飽きることなく眺めている
たぶん、旅にでる理由なんか
ひとつも、無かった

図鑑に載らない動物を
大きな水槽で飼ってみたいと思うときがある
とても残酷で我儘かもしれない
水の底にあおむけの僕が
ゆっくりと沈んでゆくのを想像する


自由詩 図鑑に載らない動物 Copyright sample 2013-06-01 00:26:04
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