かくれるところのない空には
石川敬大



 耳のなかに
 あらぶる海波が音をたてて打ちよせる
 波うちぎわがあって
 すぐにきえる影をつくって
 雲の列車がゆく

 武器をにぎりしめている
 ビルのうえには
 どこにもかくれるところのない
 どこにも角ばったところのない
 五月
 の
 空があって
 まもなくやってくる
 雨期を
 首をながくしてまっている
 ビルのような馬の影がのびている

 島がある
 から

 鳥がいる

 花が咲いて
 草が生えている
 虫がいる

 にがいものをのみこんだ
 ひとを
 むかえて
 臨終まぎわの心電図の裏がわを
 のぞきこむ
 犬がいる

 にがいひと
 いじょうににがいかおの玄関先で
 ぼくの
 犬が
 とほうにくれている






自由詩 かくれるところのない空には Copyright 石川敬大 2013-05-30 17:38:01
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