河童のおはなし
……とある蛙

手賀沼の畔

今、道の駅があるあたり

河童が一匹人を待つ

臆病河童の三太郎

道祖神の裏に隠れて人を待つ

手賀沼の畔

大きな椨(たぶのき)の影で

臆病河童の三太郎

村の悪童銀次を待つ

いつも銀次はいじめっ子

三太郎の弱点の

皿をめがけて石で打つ

その修復に一と月と三日

その仕返しに

銀次を待つ

大きな椨の根元

道祖神の裏に隠れ

臆病河童の三太郎

仕返しのために銀次を待つ

いつまでたっても現れず

日が暮れても現れず

翌朝河童は子供に化け

通りがかりの爺にこういうた

「銀次のあんちゃんどうしてる」

「銀次のあんちゃん見かけない」

爺は困って黙ってた

爺は悲しそうに黙ってた

「銀次は一昨日死んだんだ」
「銀次は一昨日おぼれ死んだ」
「虐めた河童に殺された」
「虐めた河童が溺れさせた」

河童は叫んで逃げ出した

河童は泣きながら逃げ出した

「おらぁ銀次を殺していない」
「おらぁ全然やっていない」

河童は沼の畔で泣いていた。

もう一度銀次に会いたかった

もう一度銀次と喧嘩したかった

そして、もう河童の相手する者はいなくなった。


自由詩 河童のおはなし Copyright ……とある蛙 2013-05-30 12:43:52
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