隣人計画 2
英水

一.

シンクロしている部屋に棲んでいる。

「今日は、耳を貸してくれよ」

ということなので、油に包んで投函しておく。
私は目を借りて、360°サラウンド。

帰ってくると

「炭酸のように、至るところで音が弾けている」

という。

「お前も、明日は耳で行けよ」

などという声が浮いている。
隣人との連絡は、共有している壁に声を流し込んでおく。


目で行く日には、覚悟がいる。
浮腫ムクんで眼窩にナカナカ収まらないさえある。
そんなときは、涼しい場所に置いておく。
角のない、白い部屋などがいい。
あるいは水槽で泳がせる。

二.

図書館にシンクロに行く。
四肢を5セット借りる。
6セットの四肢で、空と平行に転がってゆく。


コンクリートのレーンは、混雑している。
レーンは、長細い筆箱みたいなものが錯綜した都市的施設で、
大地にはりついているカサブタだ。
いつもより四肢が多いので、レーンで跳ね返ってくる人に跳ね飛ばされて、
ジクザクにシンクロしてもかまわなかった。


それでもやはり疲れたらしい。
借りた四肢は、元に戻して返さなければならないので、なお更だ。
今日は、全ての付属物を外して、休息させる。
丸身体に収まって、夢をみるだけの夜。


付属物は、闇の中で影を孕んで並立している。
リリ と揺れ、わずかに赤く発光し、

隣人と、隣人と、隣人と、

微かにシンクロしているだけの夜。


自由詩 隣人計画 2 Copyright 英水 2004-12-30 03:13:33
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