月の力を信じている
村上 和


たしか、月という名だった。
名前とはたいていの場合
生まれた後付けられるのだろうが、
それは生まれる前から月として
ただ、そこに在ったのだと思う。



結婚式に参列している。
周りは知らない顔ばかりだ。
あんなに小さかった赤子が、
私の知らない場所で、これだけの者達と出会ったのだ。
沢山の物語があり、
その全てに始まりがあって、
そして、終わりが来るのだ。



彼は突然彼女を思い出す。
記憶の遥か彼方に流されたと思っていた想い出が、
古いVTRの様に回り
出会い、笑い、泣き、
別れを終えた後静かに止まる。



子供達よ、
戦争の悲惨さを覚えているだろうか。
兎が空を飛んでいた頃を覚えているだろうか。
出来るなら忘れないでいてほしい。
紡いでいってほしい。
私が消えて、歴史だけか残ったその後も。



彼女は言った。
例えば君の、人生最良の日に私はそばにいたい。
赤と白の花びらを月が照らしていた。
私は月の力を信じている。
彼女はたしか、そう言った。


自由詩 月の力を信じている Copyright 村上 和 2013-05-24 00:42:44
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