後厄純情労働歌
平瀬たかのり

 きょう、小学生のとき
 はじめて好きになった同級生と出会った
 
 いつものように
 タイムカードを押した後でも
 とりあえず売り場の前を
 いったりきたりしている、そんなとき
 彼女が気がついてぼくが気がついた
 
 ぼくは店をたたんで今ここで勤めていることを話し
 職場の制服を着た彼女は子供のためにがんばらなくっちゃと言った
 「あいかわらず別嬪さんで」と言ったぼくに
 (それくらいの本当のことは照れずに言えるほどには年を経た)
 彼女は「もう」なんてはにかんで笑った
 
 肉じゃがコロッケをトングでトレーに入れる彼女を
 きょう、盛りつけと丼とお寿司のフォローだったぼくは
 ちょっとだけ残念な気持ちで見ていたりなんかして
 
 タマゴを買って帰るとき
 レジに並んでいる彼女と目が合った
 ぼくたちは笑いあって別れた
 きっとまたここでこんなふうに
 他愛もなく会って
 他愛もなく笑って話して
 他愛もなく別れることも
 あるだろう
 いよいよこれから暑くなって
 天ぷらやらトンカツやらカラアゲやら
 フライヤー四漕の前の熱さなんて
 ああそりゃもうきっと
 はへはへ ふぅふぅ へろへろ よれよれ に
 ちがいないけれども、ね


自由詩 後厄純情労働歌 Copyright 平瀬たかのり 2013-05-23 21:09:27
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