影虫
まーつん

 存在の全てを否定されたら
 君は裏返ってしまった

 歩き回る影の様に
 光の中に居場所を探す

 そこを
 白い地獄と
 呼んでもいい

 頭上の雲は
 あらゆる色に染まるが
 白だけは取り戻せない

 紅い風に吹かれ
 銀の雨に打たれながら
 鏡の国へと通ずる
 秘密の入り口を探し続け

 当てもない探索に
 やがては飽いて

 見捨てられたビルに逃げ込み
 閉じ込められた時間が
 ゆっくりと朽ちていく
 部屋の一つに倒れ込む

 床に寝そべれば
 絨毯を這いまわる
 無数の黒い゛影虫 ゛たち

 それはあるいは
 君の一部なのかもしれず
 垢のようにこそげ落とした
 暗い意識の表皮
 その名残なのかも

 影虫は
 窓から注ぐ日射しに触れると
 音もなく縮み燃え尽きて

 光の水溜りの中に
 踊りながら沈んでいく
 たくさんの黒い影 虫ケラ

 君は
 陽ざしの中を歩いてきた
 我が身を想い
 光の中に死んでいく
 闇のカケラたちを憐れむ

 頬を伝う涙は
 腐り水のように濁り
 口に漏れる嗚咽は
 紙くずのように皺枯れて

 神を呪いながらも
 救いを乞うて手を伸ばす

 空を塞いだ
 染みだらけの
 天井に向かって

 その刻
 古い冷蔵庫の扉が
 引き剥されるように開き
 電源を失ってから久しくも
 窓越しに薄められた四季に
 溶けることなく
 氷結されていた神が

 不完全な神が

 どさりと床に落ちて
 埃を舞い立てながら
 ごろりと反転する

 君は氷柱を溶かそうと
 裸になったわが身で包み込むが
 悲しいかなその身体には
 一握りの熱さえも
 残されていなかった

 氷の中に閉じ込められ
 慈悲の微笑みを浮かべたまま
 永遠の夢を見続ける
 未熟な神に向かって

 君は叫びながら
 目覚めを乞い続ける

 朝はとっくに歩き去り
 昼でさえも背中を見せて

 今や夜を背後に従えた
 落日の刻が迫ろうとしている

 白はゆっくりと
 灰色へ そして
 影さえも飲み込む
 息も詰まらせる漆黒へ

 なのに
 全ての終わりを約束した
 苦悩の終わりを約束した

 君の神様は





 眠ったままだ











自由詩 影虫 Copyright まーつん 2013-05-23 11:16:12
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