山鳩の遠く鳴く朝
石瀬琳々

山鳩の遠く鳴く朝
僕は旅に出る
心は遠く動いている
窓の向こう
あの坂を下った道に


風が梢をさやがせて
あれは空に向かって高鳴る心臓
緑の葉が一枚 また一枚
流されてゆく
風に何を告げ別れてゆく
透き通ったまなざしがあれば
明日に透けてゆく


誰も知らない時間がある
光をまとったまま花は微笑み
秘密のことばをささやくのだ
いつか小径の濡れた緑をくぐり抜け
子供に還る
緑の葉が一枚 また一枚
流されて


どこへ
それは旅
一瞬のなかに
ある
永遠


いつも誰かが
呼んでいるような気がした
あれは鳥の声
いいえ もうひとりのわたし
遠い日見失った後ろ姿
はるか草を渡ってゆく風の



山鳩の遠く鳴く朝
僕は夢を見る
緑もえるまだ見ぬ国を
夏が白い手でさし招いている
やわらかな指先で




自由詩 山鳩の遠く鳴く朝 Copyright 石瀬琳々 2013-05-22 06:21:02
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