10年後
nonya
プチトマトの実がついたと
子供のようにはしゃぐ君の瞳は
まだ昨夜の喧嘩のことを
忘れていないよと言っている
後ろからのぞき込む
バツの悪い僕の視線は
幼いトマトと君の横顔の間を
おそるおそる綱渡りする
互いの手の内が
分かり過ぎるゲームは
どちらかが潔く負けなければ
いつまでも終わらない
今日の朝食は
かなり焦げたハムエッグと
苦いだけのコーヒー
息の詰まりそうなダイニングの片隅で
今日は君の大好きな
チーズケーキを買って帰ろうと思った
自分の荷物は自分で背負わなきゃと
偉そうに言っておきながら
君の荷物に甘えやわがままを
忍び込ませた僕の負い目は
ますます君を強くさせ
ますます僕を情けなくしていく
微妙なバランスのとり方とか
正確な距離の計り方とか
そんなことばかり学んだ
10年間だとは思いたくない
よく似たふたりと言われるけれど
君は今でも君らしく
僕は今でも僕らしいと
信じていたい
いつもの曲り角で
何気なく振り返ると
僕のあやふやな後ろ姿に
君はまだ手を振ってくれていた