ノリについて。
凍湖(とおこ)
道を歩いていて
右隣のひとも
左隣のひとも
前も後ろも
みんながいっせいに駆け出したら
わたしもまた、わけもわからず、走り出すのだろうか
行き先もしらず、目的もしらず
押し流され、ばたばたと派手な足音をさせて。
たとえ、わたし個人が
「ときどき足をとめて
道端のアリンコの行列を眺めていたい」
と、思うような、人間だとしても
いったん、ひとびとの洪水の一部になったら
もうアリンコは、踏んで行くしか、ないだろう。
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ノリとは、なんだろう。
ときどき、ひととひととの間(人間)にうまれて
わたしたちの四肢に、強力な粘性をもって、べったりと貼りつく、ノリ。
ノリは、ことばではない。理性でもない。意志でもなく、個人でもなく、合意ですら、ない。
でも、ときどき、法律だ。
サーファーのように、ぎりぎりでノリの波を渡っていくひとたちも、いる。
彼らの動物的な反射神経と、嗅覚。天賦の才を以てこなす、華麗な身のこなし。彼らほどでないが、波にあわせるひとたち。
けれど、波乗りの最中に、かえりみることができるだろうか。
波の下で、どうしようもなく揉まれ、翻弄されているものたちを。
洪水のなかで、わたしが踏んだアリンコの死骸を。