風バイ花
アラガイs


景色は遠く雲は近くに留まっている
このアパートには僕だけが居て他に誰もいない
誰もいない階段を途中まで降りては引き返す付け爪の先
膝頭が薄い壁を突き破り
部屋から聞こえてくる確かな物音に
ぬくもりが、これはきっと誰かが暮らした軌跡の面影
なつかしさはみえない汚れと
たとえば蟻や蜘蛛やダニや小さな虫たち
痕跡は棄てられた隙間を埋めるだけ
塗り壁は朽ちたまま解体もされない
閉鎖した工場の門に泥灰が溜まる
咲いた水管の白い亀裂
空地に雲はながれ
文字と他に誰もいない
廃墟に雑草が生い茂る
綿の煙が風に浚われて
いつしか僕も消えて
残った小さな虫たちもまた何処かに消えた 。









自由詩 風バイ花 Copyright アラガイs 2013-05-20 06:00:35
notebook Home 戻る