
森のなかに入るときアーヤは緑のなかに突撃するみたいな気持ちになりました
だけどいきなり木々のねっこです
あたしは直線、ヒョウスケくんはたぶん遠回り、だから絶対、ヒョウスケくんに勝つんだ、
ねっこを越えながらアーヤはヒョウスケくんがびっくりしている様を思い浮かべました
アーヤは勝ちたくて勝ちたくて夢中になって歩きました
なんでこんなに勝ちたいんだろう、
お母さんに夜遅くまでトランプゲームをせがんだ嵐の夜を思い出しました
アーヤはじぶんがいま不安だからじゃないかなと思いました
すると急に洞窟からでたようになってあたりの景色が目に入ってきました
空を見上げると木々の枝葉のあいだから木漏れ日がのぞいています
それを見つめてもまぶしくありませんでした
木漏れ日の上空を一羽の鳩がゆくのがはっきりと見えました
あれはきっと、伝書鳩だわ、おっ、とっとっとっと、
アーヤは木々のねっこに足をとられて転んでしまいました
いったあ、うえ見てたら、危ないわ、
転ばないようにと足もとをしっかりと見しっかりと踏んで先を急ごうとしたときでした
あ、マヨネイズ!
ひかりの妖精たちがアーヤの足もとを無数のひかりのリングで照らしていました
こんなにかわいいマヨネイズを見るのははじめてでした
アーヤはマヨネイズたちに話しかけました
こんなところで遊んでたんだ、いなくなったと思って、心配したんだから、
空を見上げると木々の枝葉のあいだから太陽が見えました
あれ?
アーヤはいつもより長く太陽を見つめていました
見つめていたというより見つめることができたのでした
太陽が太陽のまあるいかたちをしているのが分かりました
はじめて見る太陽のまあるいかたちでした
ほんとうだったんだ、ほんとうに、まあるかったんだ、
太陽がまあるいかたちにぐるぐるぐるひかりを回転させています
足もとにはマヨネイズたちのひかりのリング
ひかりのリングの内側が暗いのが不思議でした
迷いネズミ、
アーヤはヒョウスケくんの間違えて覚えているマヨネイズの呼び方をつぶやいていました
リングの内側の暗くてまあるい影がネズミに見えたのです
ふしぎなひかり、ふしぎな迷いネズミさん、
アーヤはマヨネイズたちにそうささやきました
リングがひらひらひらひら揺れながら土色のうえを移動しています
ひかりのリングを見つめているとアーヤはやさしい気持ちになれるようでした
これじゃあヒョウスケくんに負けちゃうな、
アーヤはじぶんの気持ちが透明になっているような気がしました
なんだかわからない不安いがい感情がないようでした
これじゃあ、負けちゃうなあ、
アーヤはヒョウスケくんに早く会いたいと思いました
勝ちたいからじゃなくて会いたいから走り出そうとして前を見ました
アーヤの口からちいさな悲鳴がもれました
アーヤの行こうとする方向にひかりのリングでできた道がのびていたのです
ひかりのリングを踏みながらアーヤはごめんねごめんねと心のなかでつぶやいていました
マヨネイズたちに謝っているのか迷いネズミたちに謝っているのかそもそもなんで謝っているのかアーヤにも分かりません
ヒョウスケくんも、謝っているのかな、
ふしぎなひかりを踏みながらごめんねごめんねとつぶやいているヒョウスケくんを思い浮かべました
ヒョウスケくん、楽しいね、
アーヤはヒョウスケくんと一緒に歩いているようでした
アーヤ、ぼくもだよ、のびのびしたよ、楽しいね、
アーヤの空想をヒョウスケくんはいつもそのまま聞いてくれました
それがアーヤにとっては自然でふつうで大好きなことでした
アーヤもヒョウスケくんの空想をいつもわくわくして聞いていました
聞いていると前からじぶんも考えていたことのように思えるのでした
そんなふたりが半年ぶりに口を聞いたのです
そんなふたりが半年も口を聞いていなかったのです
アーヤはなんて不自然なことをしていたのだろうと思いました
楽しかったね、ヒョウスケくん、のびのびしたね、
アーヤはまあるい芝生でヒョウスケくんと交わした言葉を思い出そうとしました
アーヤはまあるい芝生の薄まったひかりを思いました
あのとき感じた違和感を思い出していました
久しぶりだったからかな?あんなにのびのびして、楽しかったのに、
ヒョウスケくんと一緒にいて違和感を感じるようなことは初めてでした
アーヤはさきを急ごうとして足もとに目をやりました
あ、消えてる、
ひかりのリングが消えていました
迷いネズミのまあるい暗い影がなくなっていました
ひかりのリングの代わりに欠けた月のかたちのひかりがありました
それが行く道の土色をまばらに照らしていました
アーヤはなにかを振り払うようにそのひかりを踏んでゆきました
もうすぐ、ヒョウスケくんに会える、
ただそれだけの気持ちになって欠けた月のひかりを踏んでゆきました