(1)アーヤと森とふしぎなひかり
吉岡ペペロ
アーヤは森を眺めるのが大好きでした
森の甘い匂いがアーヤの鼻を撫でています
森のうえでは雲がぐんぐん姿をかえてゆきます
とうとう青空だけをのこして雲は見えなくなりました
森のやわらか色の緑はずっと揺れたままでした
緑は風に揺られるだけで雲のようにはなくなりません
優しく波うつだけでどこにもゆかないのです
アーヤはしたからお母さんの声を聞きました
むこうの森のヤンおばさんが風邪をひいているらしいから、このパンとジャムとバターを届けてきてちょうだい、
アーヤはヤンおばさんと大の仲良しでした
アーヤの笑顔といっしょにね、
お母さんはそう言ってアーヤにお使いの支度をさせました
この森を抜けたらまあるい芝生があるから、そこに着いたら太陽を見るんだよ、じいっと見るんだよ、ちょうど太陽が動いている方に道があるから、その道をすすんでもうひとつの森を抜けたら、
うん、分かってるよ、いってきまあす、
アーヤはそう言っててくてくと目の前の森のなかに入ってゆきました
森のなかにひかりの妖精が住んでいることをアーヤは知っています
見たことはないけれど知っています
森のなかに足を踏み入れると辺りはほの暗くなりました
アーヤはうえを見上げます
木漏れ日がちらちらちらちら緑のすきまに見えています
アーヤはそれをひかりの妖精だと思っていました
伝え聞いている妖精のなまえはマヨネイズ
マヨネーズみたいで、面白い、
アーヤは思い出し笑いをしながら森のなかを歩いてゆきました
アーヤには分かっていることがありました
お母さんが言ってた今回のお使いの理由がたぶん嘘だということが分かっていたのです
このパンもこのジャムもこのバターもヒョウスケくんの大好物だったからです
お母さんの手作りのそれらを家に遊びにきたヒョウスケくんはいつもアーヤのぶんまで食べてしまうほどでした
ヤンおばさんのことをいつもアーヤもお母さんもヒョウスケくんのお母さんと呼んでいました
でもきょうお母さんはヒョウスケくんのお母さんとは言わずヤンおばさんに届けてきてと言いました
アーヤはヒョウスケくんとおおげんかをして半年以上口をきいていなかったのです
たぶん、ヒョウスケくんが風邪をひいているんだ、
アーヤはそう考えました
ヒョウスケくんと仲直りできるのかなあ、
アーヤは木々のねっこを優しく踏み踏みし見えない鳥の声を聴きながら森を歩いてゆきました