それは薄汚れた顔で笑っている
ただのみきや

言論の自由の中で
わたしたちは饒舌な唖になる
会葬者の囁きにも指先を踊らせるが
本心は棺の中
乾き切った筆のように横たわっている

表現の自由の中で
わたしたちは着飾ったマネキンだ
禁忌を破り一石を投じるただそのために
禁忌を破り一石を投じ続けている不感症 だが
素ではいられない つまらない者に思えてしまい

自由主義経済の中で
わたしたちは消費者としての地位を保てない
人に値札が付けられる 奴隷市場さながらに
変わらない自分が値崩れを起こす
景気の波 需要は並 涙の価値も下がりっぱなし

信じるな
誰かに与えてもらった自由など
国や社会が保障する自由など
高尚な響きに欺かれ自らの欲に溺死する
蜜に囚われた蟻のよう

それは世界中何処を捜しても有りはしない
もしもおまえの心の中に無いのなら
それは傍若無人の許可書でも権力への反抗でもない
屈することなく良心に(誰かのではないおまえのだ)
従おうとする確固たる意志 内なる力

国中の者が石を投げても
あるいは誉めそやしても
自分の良心に逆らって与するな
それが権力者の側であっても
たとえ反逆者の側であっても

長いものには巻かれるか
巻かれやすいよう諸手を上げて
鳥は落ち人は死ぬ 銃は殺す者の手の中だけにある
だが心から心へと渡って行く鳥に弾は届かない
国家や権力が力でねじ伏せようとするときにこそ
名もなき誰かの中でそれは目を覚ます
奮える魂から溢れ出し 言論となり表現となり
思考停止しかけた人々の足枷の鎖を鳴らすのだ

もしも最後の数秒が許されるなら
愛する者に何を伝えるだろうか
真心から一番言いたいことは何か
悩んでいる暇などないのだが

つまり自由とはそういうものだ

自分にとって本当に一番大切なものを
一番大切にして生きる
確固たる意志 内なる力
羅針盤と大いなる翼
心の闇に戦いを挑むもの

誰もが憧れて
誰もが躊躇する

今日もまた踏みにじられ
明日もまた頭を擡げるもの



自由詩 それは薄汚れた顔で笑っている Copyright ただのみきや 2013-05-18 21:44:53
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