魚の子
月乃助


緑をゆらす
風は、なおらかに こんなにも
美しいものだから
少しばかり
すずろ歩き


季節をむさぼれば
不埒な 出会いが待っている


ちいさな 会釈


往きかったのは、風にうつろう
たんぽぽの綿毛でした
幸せそうに 運命に実をまかせ、


僕もまた この世では、ひと粒の意志をもった
種子にすぎない


それもまた
一夜
三千の変異する細胞
生きるとは、あたたかくあるということでも
柔らかいということでも ないのです


したたかな道のり、だった
環境に適応したのは、はしたない順化であり
それは、けして 進化ではない


深山の
登りつめた こんな
頂に眠るようにひろがる 白い砂
みまがうことのない わたの原の
潮の香り 


生は、鋭利な短剣のように
生きるものの決意をもとめ
それを 確実とする柔らかな心を欲する


このほしは、古に すべて海におおわれていた


誰もが海のもうし子
脊椎をもった ちいさな魚だったなら
カンブリア紀 あれは、
水の中の つめたい鱗をすてる
僕の始まり






自由詩 魚の子 Copyright 月乃助 2013-05-18 21:26:20
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