雨粒カプセル
まーつん

 一


 雨粒に君を閉じ込めて 
 空にぶら下げておく

 いつでも好きな時に
 見えない糸を
 風の鋏で切って

 僕の前で
 パチンと弾けて
 ほしいから


 二


 雨粒に
 大切な記憶を閉じ込めて
 雲に蓄えておきなよ

 だってみんな
 そうしてるよ

 手に取って
 眺めたくなったら
 風に雲を呼んでもらい

 足元の石を拾い上げ
 思いっきり投げつければ
 空は簡単に泣きだすから

 やがて
 どしゃ降りの雨に交じり
 
 掌に一粒の
 特別な涙が届く
 その雨粒が弾ければ
 思い出が転がり出てくる

 四つん這いになった記憶は
 寝起きの赤ん坊みたいに
 暫く頭を振ったり
 瞼をこすったりして

 やがて
 こてんと座り込む

 君を見上げて
 無邪気に笑うから
 指先であやしてやるといい

 遊び疲れたら
 記憶の赤ん坊は
 親指を咥えて丸くなり
 掌の上で眠り込む

 すると
 その体が光り出し
 輪郭が溶けて
 するすると根を伸ばし
 透明な茎を立ち上げ
 くすんだ色の
 花弁を広げると

 ピントのぼやけた
 街並みを背景に
 見開いた視界の中
 密やかに咲き誇って

 君の気分を
 セピア色に染める
 
 それは゛今゛を
 忘れさせてくれる
 心地よき慰めだ

 思い出の影絵芝居が
 花の香りにひらめいて
 
 閉ざす瞼の裏側で
 君は懐かしき
 微笑みと向き合う



 少なくとも
 しばらくの間は






自由詩 雨粒カプセル Copyright まーつん 2013-05-16 21:47:15
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