一九九三年十二月二十六日午後 中山競馬場パドックにて
平瀬たかのり

 よいしょ ほら これで見えるだろ
 うん お馬さんいっぱい歩いてるね ねえお父さん
 何だい
 あのお馬さんピカピカできれいだね
 どのお馬だい
 ほら あの4番のお馬
 ああ あれはトウカイテイオーっていうんだ
 とうかいていおー?
 えーとね マチコおばちゃんが住んでるあたりのね 王様ってことさ
 ふーん でも本当にいちばん王様みたいな歩き方してるね
 あはは そうだね

 あっ お父さん
 何だい
 トウカイテイオーってソックスはいてるの?
 ああ、あれはあそこだけ色が白くなってるんだよ でもソックスなのかもし  れないねあれは うん
 ふーん そっか あっ でも一つだけ履いてないよ なんでなんで
 ほんとだ どうしてかなあ うーん どうしてかなあ あ お母さんのおなかの中にソックス一つ忘れてきちゃったんだよ きっとそうだ
 うーん 慌てんぼうさんだねえトウカイテイオーは
 あはは そうだね

 ねえ お父さん
 何だい
 トウカイテイオーって強いの
 うん強いよ でも他のお馬さんとずーっと競走できなかったんだ
 どうして
 足の骨を折ったんだ だから治るまで一年もお休みしてたんだよ
 そうなんだ
 でも走るのが大好きだから頑張って治したんだよ だから今日も有馬記念を走ることができるんだ
 ありまきねん?
 みんなが大好きな強いお馬さんしか走れない特別な競走さ
 へーえ 頑張りやさんなんだねトウカイテイオーは
 うん 頑張りやさんだね

 ねえ お父さん
 何だい
 トウカイテイオーは勝つかなあ
 うーん どうかなあ 分からないなあ
 だよね だってお父さん今日はずしてばっかりだもん
 うーむむ
 これじゃお母さんにおみやげ買って帰れないよ
 うーむむむ

 ねえお父さん
 何だい
 トウカイテイオーってお顔に白い線があるんだね
 うん あるね
 すごくかっこいいね
 かっこいいね あれは流星っていうんだ
 りゅうせい?
 流れ星のことだよ
 へーえ 流れ星かあ――あっ じゃあ じゃあさ トウカイテイオー見ながらお願いしたらそれって叶うかなあ ねえお父さんお父さん
 そうだね 叶うかもしれないね

 よーし じゃあ言うよ

 ありまきねん お父さんがはずしませんように
 あはは
 そしてお母さんにおみやげが買えますように
 あははは
 それからミキにも何か買ってくれますように
 えっ えっ ミキちゃんこの前サンタさんからプレゼント貰ったばかりじゃない
 えへへ いーのいーの だってあれはサンタさんからでしょ お父さんからは貰ってないもーん ふふふ
 それから それからね んーと えーとね

 あっ そうだ

 トウカイテイオーが勝ちますように
 みんなと走っているときに また足の骨を折りませんように 


自由詩 一九九三年十二月二十六日午後 中山競馬場パドックにて Copyright 平瀬たかのり 2013-05-16 15:55:43
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