たそがれの約束
平瀬たかのり

 深夜の競馬番組
 通を気取る三流芸人が
 したり顔して言いやがった

 最終レースにはね、美学があるんですよ

 この野郎
 寝言ほざいてるヒマがあるのだったら
 芸でも磨け
 かっこつけた事言って
 横に座ってるアシスタントの
 気を引こうとしてるのが
 丸わかりなんだよ
 ばか野郎

 府中の長い直線を
 いつだって夕陽浴びて
 見習いアンチャン騎手を背中に
 はるか後ろから突っ込んでくる
 馬がいたという
 必ずとどきはしなかったのに
 その追いこみは
 結ばれない恋人と
 いつか交わした
 たそがれの約束にも
 似ていたろうか

 なぁんてな

 最終レースに美学なんてない
 そこにあるのは
 馬券オヤジどもの
 嗄れた叫び声とあぶら汗と帰りの電車賃
 くらいのものだ
 そこにいるのは
 いつまでも勝ち上がれなくて
 ヘタすりゃ馬肉にされてしまう
 馬くらいのものだ
 それでも
 砂粒ほどの希望を背負わされた
 馬くらいのものだ

  〈タイストレート〉


自由詩 たそがれの約束 Copyright 平瀬たかのり 2013-05-15 20:37:12
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