身辺雑記より(六)
たもつ


料理を注文する君の声が
空気の振動のような透明さで店内に響く
放っておくと月明かりしか入ってきませんから
と、ウェイターがカーテンを閉めていく
中央のテーブルでは座高の高い男が
大声でメニューを朗読している
嘘っぱちめ
ひし形のアブラムシとか鋭利な綿毛とか
実際にメニューにはないものばかりだ
運ばれて来た料理はとろみがかり光っている
とろみのあるものを食べながら
何か他の話をすることが僕らは好きだ
話が佳境に入ると
僕の右足はいつも変な角度でひきつってしまう
こぶらがえりね
こむらがえりだろ
座高の高い男は朗読を終えてマスターと談笑している
やはり嘘っぱちだ
マスターもまたメニューなどには載っていない
裏切り者!
後ろで誰かが叫ぶ
そちらを見た人々は
裏切ったことのある人たちだろうか
それとも裏切られたことのある人たちだろうか
振り返った僕はどちらなのだろう
店を出て死んだ列車に乗って帰る
生きた肉体を持つ僕らが少し透けている




自由詩 身辺雑記より(六) Copyright たもつ 2004-12-29 17:06:08
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