本質と原理
HAL
霖雨が好きだ
騒がしい街を沈黙させるから
落陽が好きだ
燃え尽きる前の灯りのようだから
吹雪が好きだ
すべての存在の輪郭を消してしまうから
昨日が好きだ
もう二度と訪れはしないから
否定が好きだ
肯定よりすべてを見下さないから
儚さが好きだ
一瞬にして未練を消してくれるから
罵倒が好きだ
偽善を叩き潰してくれるから
生命が好きだ
いつかこの世を去っていくから
人間が好きだ
それらのすべてを持ち得ているから
偉そうに善を語るものほど
善とは悪の犠牲によって成り立っているのを知らない
どれだけ悪を滅ぼしても
悪は善がある限り生まれてくる
ただし憶えておくべきことは
善と悪はコインの裏表ではない
いみじくも若く厳しい言葉として
Paul Nizanが“錯誤は真実ほど単純ではない”と残し
35歳で戦死したように
善と悪の関係性もまたそれほど単純ではない
そういう意味ではNietzscheは正しかったかも知れないし
或るいは大きな間違いを冒し名声と評価を得ているのかも知れない
ただその関係性を見いだしたものだけが
善と悪を見分けそれらを操る力を持つことができる
それは正しく言うと人間の本質と原理を
その手中に収め人間を支配することだと言っても間違いではない
また同時に人間を愛し抜くという精神だと言っても間違いではない
それは神すらもできない人間だけが持つ力でも在り得るのではないだろうか