青い鳥
アラガイs


あるとき学校で飼っていた鳥が逃げ出した。
教室の渡り廊下から
、屋上の手すりを伝い
校庭の門の下をくぐり抜け街路樹の上
(まてよ、鳥かごが何処にあったのか)
、まるで覚えてはいない。

クラスの編成替えから半年も過ぎた頃だった。
運動会の前日その最後を飾る長距離走の選手に僕は指名された。当時はダントツで足が速かったが、あいにくこのクラスには気の合う仲間が少なかった。
僕には逆に自分が指名されたことが嫌みに感じられて、憎らしくて、
、順番待ちの点呼が始まるまえに、もう一人の連れと近くの小山に逃げ出してやった。
放送部のマイクが二人の名前を何度も呼び続けている
走れば楽に勝つのはわかっていた。
一生懸命…誰が?(おまえらの前で苦しむ顔なんか見せものにしてたまるか)
僕らは小山の茂みに座りこみ、レースが終わるのをじっと眺めながら待っていた。
女子の声が小さく聞こえてくる度に、チクリ、チクリと刺されるように胸は萎んでいく。
それから三年生になるまで何をしたのか記憶がない。

その日は帰りの掃除をしているときだった。
掃除と言っても男子は箒を手に騒ぐのが日課のようなもので、たいていは女子の係になる。
同じクラスにいたK子の家はとても貧乏だった。バケツを手にしたK子の髪はいつもボサボサで、擦れた紺色のスカートは鈍く照り返す。カビのような白い染みまでもが暗い足下を揺らしながら歩いている。
彼女は普段から汚い汚いと罵られていた。
その日うすく抜けおちた竹箒と汚い言葉でUに小突かれていたときも
口を切り包帯をしたK子が、翌日仕事を休んだ母親を伴い学校へ現れたときにも
教室の空気は雪崩に埋まった倒木のように、僕らは平然と何も変わらない態度で二人の様子を眺めていた 。

あれからUも体育の授業で教師にこっぴどく叱られ、何時間も雪の降る校庭の門の脇でずっと正座をさせられた 。
下級生たちが横目使いにUの前を通り過ぎるとき
、猿のようなUの浅黒い顔が大粒の涙でよけいくしゃくしゃに歪んで見えた 。
あの日からUは人が変わった。口数も態度も付き合う友達までもが変化し、真面目に勉強をするようになったのを今でも覚えている 。

(体力もなくなったな)そう実感したのは久しぶりに同級生のiから声をかけられ一緒に仕事をしたときだった。
比べたら昔は二倍も三倍も俺の方が体力は上だったのに
身体さえ壊さなければ…会社を辞めてちょうど一年が過ぎた頃だった。
(飯炊きの釜を持ち上げるくらい、うちでは女性でもしてるぞ)
課長になっていたiは汗もかかずに素早い動きで仕事をこなしていく。まったく、家畜でも扱うかのように小馬鹿にされている様子だ
(ところで、K子は結婚して幸せにしているらしいな)
(ああ、二人の子供も独立して、いまでは立派に社長夫人様だろ
、おまえもこれくらい続けてやってみろよ)
……どうかな…最近身体を使わないから…
翌日は休んだ。
休んだ次の日には病院の帰りに海を眺めた。
鳥は一体何処に逃げたのだろう
(青い鳥)
この日も鳥かごがまるで思い出せない
、いや、ひょっとすると逃げたのは俺で
、傍観していたのは鳥の方だったのかもしれない。
あれから何も見つけらなかった。
…いつになったら
、明日は何処に行こうか 。











自由詩 青い鳥 Copyright アラガイs 2013-05-15 07:04:21
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