箱庭 五晩目 〜雨〜
黒ヱ
〜はるか遠くの 幼く可愛らしいお姉さんのお話〜
「これでおしまい」
触れず隠す それはまさに 「浅く深追いの指」
ぬめり 殻住みの歩み 「静かに音も立てず」
進んだ道の通りに 振り返りの目は二つだけ
それは寂しさ
本当は そこには何があったのだろう
「誰か 教えておくれよ」
「愛したひとが泣いた」
声と声 交わした響きに また湿り気を帯び
想い蒔いている
「愛してくれたひとが泣いていた」
もうひとりで傘をさす事は出来なくて
礫が降る 仰ぐ曇天を受け止めてしまう
「さよなら」の声を耳元で聞く
別々の街で 同じ夜 同じ雨を浴びている
握る手 傘を持つ手 並んで 滴る中の相合傘
後ろのふやけた灯りが照らす
溜まりを打つ音に合い 泣き顔をしている
多くの降り注ぐものから 守れないのだから
「ひとり傘」 ひとり雨
「ひとり黙して」 ひとりぼっち
水が漏れる
遠くに伸ばす指の間から
絶えず 流れ落ちている
傘を持つ手がないのなら 僕が傘になろう
その言葉を待ってしまうのさ
「泣きながら落ちてくるのだもの」
また そうなろうとも
誰にも 誰かを責めることは出来ない
「愛したひとが泣いていた」
ひとりに疲れて 何も言えずに
「愛してくれたひとが泣いていた」
ひとり 空で
「今日も きっと明日も雨」
「さよなら」は次第に 輪郭を帯び
あの時描いた街から また別のところへ手招きをする
せめて
あなたのためのこの手で 水面から濁りを取ろう
今度はあたたかな 純朴に降り注ぐものが
また新しい街で 素直な笑顔のあなたには
「大切なひと 大切なものがあり」
また新たな 相合傘
遠くなっていく対岸で
静かに黙り 今だけは願いの便りを読む
欲しいときに与えてくれては 消える
小さな声で叫んでいる
背中を向けて手を伸ばしている
「滑稽だろう でも そうすることで」
明日は 明日こそは 晴れそうな気がしてさ
今日も雨
明日は晴れるといいな