タブラ・ラサ(再生紙)
茜井ことは
粟立つ肌が
早く歩けと脚を鞭打つ
凍雲のすきま
十九時の満月はまだ低く
拾い損ねた人や物より
よっぽど近くにありそうだ
スピードを落とさず
曲がり角も無視して
ひたすらまっすぐ進んでみようか
そうして何もかも振りきっちゃうんだ
かかとを浮かせて
さよなら明日
爪先 踏み込み
家路を忘れる
前にのめって
靴も脱げそう
走る
走る
月だけ見つめて
個性という名の縛りをほどけ
わたしはわたしとはぐれたい
のに
ゴチンと間抜けな音がとどろき
わたしの門出は街灯ごときに邪魔された
鈍痛に痺れ
なすすべもなく夜空を仰げば
人口の黄ばんだ光で霞む視界に
くもの巣だけが艶めいている