タブラ・ラサ(再生紙)
茜井ことは

粟立つ肌が
早く歩けと脚を鞭打つ
凍雲のすきま
十九時の満月はまだ低く
拾い損ねた人や物より
よっぽど近くにありそうだ

スピードを落とさず
曲がり角も無視して
ひたすらまっすぐ進んでみようか
そうして何もかも振りきっちゃうんだ
かかとを浮かせて
さよなら明日
爪先 踏み込み
家路を忘れる
前にのめって
靴も脱げそう
走る
走る
月だけ見つめて
個性という名の縛りをほどけ


わたしはわたしとはぐれたい


のに
ゴチンと間抜けな音がとどろき
わたしの門出は街灯ごときに邪魔された
鈍痛に痺れ
なすすべもなく夜空を仰げば
人口の黄ばんだ光で霞む視界に
くもの巣だけが艶めいている




自由詩 タブラ・ラサ(再生紙) Copyright 茜井ことは 2013-05-13 19:16:46
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