イナエ


月はね 二つあるのだよ 
望遠鏡から離れて 自分の目で見てごらん
三日月の尖ったあごは二つに分かれているだろ
昔の人が見た乙女や兎が住んでいる月
今見る乾いた月の後ろに少しずれて
ぼくには確かに見える

お化け煙突を知ってるだろう
正方形の角に立つ四本の煙突が
一本にしか見えないところがある
少しずらして眺めると 
陰のようにくっついている物が見えてくる
それだよ

きみも話していたね
飛行機の窓から眺めたアパート群
それは灰色の墓碑群だったって

二人で遊んだ浜辺の遊園地 
天空を指さす城の青空に透けて尖った屋根
人々の捨てた夢の血で 
赤く染まった尖塔がかくれていた

地球にはお化けがたくさんあって
普段はうつくしく着飾って 
優く穏やかな顔を見せている
けれども
何かが起きると 化粧が落ちて
本性があらわれ 毒気を噴き上げるのだ


自由詩Copyright イナエ 2013-05-13 16:36:25
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