幻
イナエ
月はね 二つあるのだよ
望遠鏡から離れて 自分の目で見てごらん
三日月の尖ったあごは二つに分かれているだろ
昔の人が見た乙女や兎が住んでいる月
今見る乾いた月の後ろに少しずれて
ぼくには確かに見える
お化け煙突を知ってるだろう
正方形の角に立つ四本の煙突が
一本にしか見えないところがある
少しずらして眺めると
陰のようにくっついている物が見えてくる
それだよ
きみも話していたね
飛行機の窓から眺めたアパート群
それは灰色の墓碑群だったって
二人で遊んだ浜辺の遊園地
天空を指さす城の青空に透けて尖った屋根
人々の捨てた夢の血で
赤く染まった尖塔がかくれていた
地球にはお化けがたくさんあって
普段はうつくしく着飾って
優く穏やかな顔を見せている
けれども
何かが起きると 化粧が落ちて
本性があらわれ 毒気を噴き上げるのだ