蜜と毒
砂木

育てていた蜜蜂が 熊に襲われた
蜜を狙って巣箱を壊し 女王蜂も食べられた という話

熊って 蜜だけじゃなく 蜂も食べるの?
食べるらしいよ それ以来 蜂が怖がって
外へ蜜をとりにいかなくて 困っているそうだ

蜂だって恐いだろう 蜜が欲しくて 飛びたくてもね
蜂蜜をとるのも大変だね  蜂を守るのも かわいそうに

携帯電話がなる 
今 病院に行ったからな と義父
なんで?
蜂にさされて 真赤に腫れた 点滴をして貰っている
えー
よっぽど 強い毒を持っていたらしい また電話する

畑の草刈りに行った夫が 危険な蜂にさされた
草刈り機械に驚いた蜂に襲われるのは 実は良くある事
点滴をしたり 入院をしたり 亡くなる人もいる
仕事を終えて 家に帰ると 夫は薬が効いて落ち着いていた
ほっとしたが 暗くなってきているのに 義父がいない
しばらくして 殺虫剤を片手に帰ってきた

夫がさされたあたりに行って じっと様子をうかがうと
古い木の根元のあたりに穴があり 蜂が出入りしていた
きっと ここが巣に違いないと 暗くなり 寒くなり
蜂の動きが鈍るのを待って 網の防具をかぶって 殺虫剤を噴射
蜂の巣を全滅させてきたらしい

いやでも念のため 朝もまた 殺虫剤をかけてくる
息子をさされた義父の怒りは 一匹の蜂だけでなく
巣の蜂 すべてに向けられた
その言葉どおり 義父は次の日の朝 残りの蜂を殲滅

この蜂だろう?
蜂の死骸を木の葉にのせて持ってきて 夫にみせた
違うような気がする
えっ? いや この蜂のはずだ まずは安心だ

一度 蜜の味を覚えたら 忘れられない
一度 毒にやられたら 二度めのショックで 死に近づく
蜜を持つ者は 危険を飼いならし 働かせなければ

パソコンをしていると どこから迷い込んだか
窓際に 大きめの蜂がいる
窓を開いて 逃がそうか でも また帰ってきて
洗濯物に 入り込むかもしれない
知らないうちにさされて ショックで死ぬかもしれない

殺さなければ  と 私はゆっくりと 殺虫剤をとる 
一度でしとめないと 逆に襲われる
気づかれないように 噴射口を向ける

かわいそうね
さされたら 私

毒に 蜜




自由詩 蜜と毒 Copyright 砂木 2013-05-12 14:09:00
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