ア・ピア
平井容子




1.障害のある屋根のしたで


虹といた

ほら、また打ちまつがったと言って舌をかむ
仕打ちのむこうの
わたしよりもずっとあどけない家族写真の風景

ギテイが舐めるように時計を見ている
あの日
前奏だけで終わる曲を
口ずさみながら逃げたね



2.馬事


渋谷の滑走路という神話を耳にした
わたしには羽などなかったが
それは寝ざめのたびに再生され
いつのまにかほんとうに
多くのセイレイが飛来するような気さえ
していた

地鳴り
のどから血を吹く恋人たちの偶像が
明日のあさ、あの交差点で打ち上げられる



3.ナデア


孤立したネルを超えて
黒い雫が便箋に夜をつくった
止むことのない掘削と
圧搾の雨のことを
どのように記したかはわからない
あるいはここへの地図
そのどれもが息に溶けるインクで記され
あとは痴ほう者のように笑っている



4.終止譜(日没)


生んだことのない星が落ちてくる
あたらしい柑橘のにおいを放ちながら
顔にはひとつきり
大穴があいている
針に糸をとおすように
いつか通過するかな
わかりません
それは奪いかえす歌だったかな
わかりません
そうか

あの説話がどこへ帰着しても
もう、好きなところへいって
いつか、また帰っておいで



自由詩 ア・ピア Copyright 平井容子 2013-05-10 17:33:19
notebook Home 戻る