静かに燃え尽きる場所
狩心

高き空は青く
地平線に近付くにつれ乳白色に
そして我が周りでは何故か透明

自由に 何も無く
僅かな影だけを引き連れて

今この時間
肉体を失った 魂だけで
人工物に憑依して
家を目指すのだ

そしてささやかな排泄
まどろんだ微熱の口内で
飴玉を転がすように

気だるい
乳児の声が響く
うわーん、ゴロゴロ、ピカッ
ゴロゴロ、ピカッ、ドシャッ

前方100メートル先に
空から落ちた死体がひとつ


(このままでいいとは思っていない)

そうだ、そこのおまえ

(このままでいいとは思っていない)

そうだそこの、肉体を失ったおまえ

計算を詩始める
迅速に行動する
全ての痛みに耐え抜く

世界にリンチされても
焼身しても
剥き出しの骨だけでやり抜く

静かに燃え尽きる場所だと?
何を抜かすバカ野郎
おまえには
力強く走る場所
しか残されていない

生ぬるいシの否定
手の平で頬を触る おまえに
手の感覚を与える なぜならば
手の平を見つめる
そして 沢山の皺がある

干上がった年輪の川に
ほとばしる稲妻の枝に
震えた文字の営みに
途方もなく続く渇れた谷の壁を
手でなぞりながらマッチを擦るように
発熱する銀河に戸惑いながら揺らいで
形を変えていく個形物に
生命の息吹を植え付けながら

遥か遠く手の届かない なぜならば
限り無く近く離れられない同一の
そして

おまえに
落ちた滴、我が瞳の空
さらに落ちてゆく瞳、滴の広がる湖
波紋にビブラートする おまえの顔
歪む 水面に浮かぶ 何か シタイ
(おまえを見つめるおまえ)

ピカッ、ゴロゴロ、ドシャッ

後方100メートルに
何か が 落ちた オト

デモオマエハフリカエラナイ

秋の紅葉の
深き森の奥
誰にも聞こえない小さな拍手のように
パチパチと焚き火の音
枯れたシの葉の上げる煙で
ソラと会話する ビブラートのような揺らぎ
影の小さな家 の中で眠る老人に
ささやきかけるように そっと
今まで出来なかった 過去形の我を棄てて
出来得る限り 優しい 眼差しで…

目の前に広がる最悪の景色 もしくは、
まるで何も無いかのような恐ろしさ の広がる…

それでもおまえ
微笑む事ができる
平然と、優しく

瞳 我が手を見つめながら
体 ハラハラと分解されて 灰になり
宙を舞う 風の旅
巻き上がってゆく 竜巻の竜
誰にも聞こえない荒々しい鳴き声で
世界に浸透していく

雨上がりの道端
滴の付いた小さな雑草の名前を思い出した
会話できないそれに話し掛けた

そこにいてくれて
ありがとう


自由詩 静かに燃え尽きる場所 Copyright 狩心 2013-05-09 13:11:36
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