天牛と島の少年
壮佑

  
―M・T君に―


「てんぎゅうをとりにいこう」
きみがそう言った夏休みに
ぼくらは残忍なハンターになる

もくもくと青空に湧く入道雲
稚魚の群れが回遊する島の海を
ぼくらは毎日飽きるほど泳いだ

おかに上がって濡れた体を拭いても
蝉の声の合唱に囲まれたら
すぐに大粒の汗が吹き出て来る

湿気た藪に羽虫の群れが忙しく舞い
麦草の上を黄金虫が飛んで行って
ぼくらの行く先は斑猫ハンミョウが道案内

草叢からハミが這い出て来ても
きみは素早くしっぽを掴んで
そいつと遊んだ後で頭を潰した

ぼくらは島の少年
萱の茂みを掻き分けて行けば
そこはぼくらの眩い聖域
海風が昼寝をして
草いきれの立ち昇る荒畑に
自生する無花果の大樹
天牛は夏の乳房に抱かれて
葉っぱや枝に必死でしがみついて
乳白色の汁を吸う赤ん坊だ

黒い翅に星が散らばる髪切虫
驚いて飛んで行く奴は放っておいて
ぼくらは歓声を上げながら捕り続けた

袋代わりの帽子に獲物を詰め込むと
おとな達のいる白い建物へ行って
天牛の数を数えて小遣いをせしめる

幼虫が蜜柑の樹を枯死させるから
角のある頚を千切られた天牛への供物は
ラムネと甘イカと真っ赤なかき氷だ

「こんどはさかなをつきにいこうか」
家路につく前に ぼくらはもう
あしたの遊びのことを考えている




※天牛=髪切虫(カミキリムシ)の漢名。


※だいぶ以前に別のHNで投稿した作品の推敲・改作を試みています。
 またこちらにUPさせていただこうと思います。(以後は特に記しませんが)




自由詩 天牛と島の少年 Copyright 壮佑 2013-05-08 21:00:55縦
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