五月/短詩群
佐東
「目の前は、海。」
青の端で青を聴く
潮だまり おどる魚影 水をよぶ銀鱗
目をとじて
うまれたばかりの水をくぐる
五月のさきにある
海の縁で
「あおあらし。」
土からうまれた子どもたちが
にょきにょきと遊んでいる
ときおり
ざあーー
と
強い平仮名が かけ抜けてゆく
銀色のベールを
頭から すっぽり被る
もうじき
美しい 雨の季節
「五月、夜。」
あくびを一つ
かみころす
喪服を着た五月たち
通りすぎてゆく
みどりの影を追いこして
「雨の花。」
切りとられた
耳の
無数の
ざわめきの
あふれかえる
空のように
名づけられた
ひるがえる
青
立ちどまる雨の
縁どりに添う
夏の
やって来る方角を
ひそやかに
見つめている