しめらない

土の間に爪が入るうごめきを感じるモーターの音と起動音
からなる空回り空回りと言うべきざわめき、木々でなくて
ぼくはかいつまんでいる、概略であって略歴であってそれ
は食物の腐る早さ、食物の腐る早さと音、蝿の、いずれも
の、その早さ、音、寒い日照りの、そういうときに限って
時間はやけに可食性で、けれど吐き捨ててしまう、どこに
かは見当がついていない、が、トルクが回り続ける、風車
が見える、ちょうど観覧車がすべて棺桶だった頃、ドット
刻みの、石棺、にねむる彼女の話が回り続ける。

ふかいみどりの、あまりにも、たしかあの場所にあったの
はポプラで、ぼくたちはその根本で瘤が顔に伝染してしま
わぬよう眠っていた、目玉を垂れ流して、それらの呪術を
甘受すべく、芝刈機の喧しさと睦声を交えながら、ぼくら
はゆっくり地面に指をさして「こころなしだね」「うん」
と、ビー玉のかたちをえづきながら嫌いながら、それでも
水でかたどられているから、芝刈機は近づいて、ぼくらを
白昼に磔にし始め彼女はちょうどワンピースを瘤に近づけ
ていく、死んだ蟻が蟻の死者たちに伴われていく。

堀のあたりを歩き続けて、こどもの声も聞こえなくなって
ぼくらはキスをして眠った、あのうすい闇の中で雲が天幕
のように動いていた、角ばった昆虫の羽音はなまめかしく
て、溶け入るために必要なことだったのに手をつないでは
いなかった、互いが足をついばんでいた気がする、だけど
したのは塩辛さだけで、ぼくらはけっきょく指を土に刺す
ことしかできない。それだけしかできない。決して。

コンクリートの下に蝉のいつか生まれ損なった結晶がある
とか、誰か言っていた、ぼくたちは掘削するために靴の音
を鳴らし続けているに違いない、たぶん、ロールアップが
下手くそで、足が見えたときの音の響きは微妙に違うから
まだ出てこないだけで、じきに土の下から鳴き声は聞こえ
てくるはずだし、手足はそれぞれつめたく光るわけだから
ほんとうは、とまで出かかったものを、嚥下して、消化し
てしまって、ぼくは忘れてしまう、指に張り付いた虫の体
はポプラの樹液を含んでいた、それだけは覚えている。


自由詩 しめらない Copyright  2013-05-04 00:10:40
notebook Home 戻る