詩人の書斎 
服部 剛

ポケットから取り出した 
懐中時計が、暖かい。 

妻の贈りものの蓋を開け 
秒針の刻む、時を視る。  

僕は今、在りし日の詩人の書斎で椅子に座り 
木目の机上をスタンドの灯が照らしている。 

先ほど婦人が渡してくれた 
いにしえの処女詩集を開き、目を瞑る―― 

映画館のスクリーンには 
白いハンチング帽を振りながら 
波止場に並び、遠のいてゆく詩友等に 
戦地に向かう船から 
精一杯、手を振っている 
若き日の詩人の姿――  

赤茶けた頁の詩集を、閉じる。 

書斎の窓外に独り佇む木の 
無数の若葉はさざめいて 
僕に何かを云っている 








自由詩 詩人の書斎  Copyright 服部 剛 2013-05-03 19:22:32
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