詩人の書斎
服部 剛
ポケットから取り出した
懐中時計が、暖かい。
妻の贈りものの蓋を開け
秒針の刻む、時を視る。
僕は今、在りし日の詩人の書斎で椅子に座り
木目の机上をスタンドの灯が照らしている。
先ほど婦人が渡してくれた
古の処女詩集を開き、目を瞑る――
映画館のスクリーンには
白いハンチング帽を振りながら
波止場に並び、遠のいてゆく詩友等に
戦地に向かう船から
精一杯、手を振っている
若き日の詩人の姿――
赤茶けた頁の詩集を、閉じる。
書斎の窓外に独り佇む木の
無数の若葉はさざめいて
僕に何かを云っている