無縁
HAL
我等が言葉を失った刻 何を語るのだろう
我等が視力を失った刻 何を視るのだろう
我等が聴力を失った刻 何を聴くのだろう
我等が嗅覚を失った刻 何を嗅ぐのだろう
訪れるのは静寂か虚無か
我等が世界は動きを停め
戦さはどこでも発火せず
ただ刻の流れを眺めるか
それを我等は平和と呼ぶのか
それが平和と呼ぶに価するか
眼を閉じ
口を噤み
耳を塞ぎ
死を忘れ
生を失い
そこに我等が覚えるのは
平和とはそういうものと
信じ込んでしまう無知か
不幸の為の 貧困すらなく
流血の為の 朱き血もなく
激怒の為の 飢餓を憶えず
戦いの為の 檄すら忘れて
我等は我等を閉鎖して
それまで目指し続けた
岸辺には辿りは着けず
凪のなか海を漂うだけ
潮流に抗う力を忘れて
それを安寧と思い込み
生が終熄するのを待ち
真の救いを求める愚矇
それを我等は希い願う
平和と信じ待つのみか
それは我等が生命を抱きながらも
行旅死亡人になる事ではないのか