棲魚 Ⅱ
アラガイs


潮の流れにまかせたまま
目的は回遊魚が釣りたかったからだ。
迷うことのない無色の水脈が苔藻の両面でぶつかり立ち止まるところ
こんな汽水域にもはぐれた奴の一匹くらいは居るだろう
餌さえあればどこだって生きられる
捨てられたコカ・コーラの壜は古い装いを変えた
(相手が居なければ戦争も始まらないのにね)
それは唐突な女の意見だったが、約束も交わさないうちに砂浜と消えた
中身の入った壜は重く沈み
底の見えない僕たちはこの先何世紀も後片付けに追われるだろう
月のない夜に煌めく鉛色の波面
小舟は櫓をなくしたまま何処かへと辿り着く。

NYの郊外でウォーホールのポスターをみかけたのは奇遇だった。
ある人たちからみればこの街の価値はとっくに失われているのに
高額の値札が張り付いたままになっていたのには驚いたにちがいない
どうしてもその日暮らしが自分には合わなかった
専門家によると新しい遊牧民の形態(かたち)だと言う
根付くことを意味しない彼らにはプライドがありすぎる
組み込まれ排出されたものが次第に理解きるようになってくると、いままで通じ合えたものが無意味にさえ思えてくる
彼は損な性分だった
(やはり生い立ちからきているのか)
ひとり暮らしには充分すぎるくらい慣れていた
はじめて知らない土地にやって来て
彼は孤独のなつかしさを思い起こしている 。

その昔
ひとは海の底に暮らしていた 。















自由詩 棲魚 Ⅱ Copyright アラガイs 2013-05-01 16:03:54
notebook Home 戻る