儀式2 移入
イナエ

 

棺は静かに炉に入り 錠が下ろされた。
男は 合掌している彼を扉の横に連れて行き
ボタンを押せと言う
「それが後を引き継ぐあなたの役目だ」と

うなり始めた炎の音を確かめ控え室に戻る
しばらくして 男は彼を裏の方へ連れて行き
炉の中を確かめさせる

両壁から炎噴きだし 
棺はすでに燃え落ちたか
中央に 今は物になった老人が横たわっている
炎が膚をなめ、パチパチ爆ぜる 
男は 脂肪が燃えるのだと言う
去ろうとする彼を留め しっかりと見送れと言う
炎に隠れて顔は見えない…

突然 物が生き返り 身体を反らす 
腕をねじる 足が跳ねる

 一体どうしたことだ
 一昨夜 呼吸が止まり 心臓が止まり 
 ディスプレイの緑のラインは
 どんな刺激にも波打たないことを確かめた

ではなかったか
まだ 残っていた生命があったのか 
炎から逃れようと手足を動かし 
身体をよじる生命が…

動揺する彼に男は 
「熱で筋肉が縮み 動くのだ」と 冷たく言う
彼は 炎の中でしだいに力を失っていく人に合掌し 
男を振り返る 

男は 鉄の扉を がしゃりと 閉じた
その瞬間 
一人の人間の死を受け入れる重いうねりに
彼の全身は激しく揺れた


自由詩 儀式2 移入 Copyright イナエ 2013-04-30 08:42:04
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