春の分泌系
塔野夏子

光は淡い
私は愁いを分泌する

花が咲いている
白の黄の 紫の花が咲いている
私は愁いを分泌する

ちいさい蝶たちも舞っている
私の目には見えないけれど
きっとちいさい精たちも
この空中を飛び交っているのだ

私は愁いを分泌する
だから春がにじんでゆく

白の黄の 紫の花も
ちいさい蝶たちも輪郭をにじませる
やがて西へ沈みゆく陽も
東からのぼる月も
とめどなくにじみながら

私の分泌する春の愁いに溶けながら――
いやそうではなく
春が分泌しているのかもしれない
私という愁いを

いずれにせよすべては
愁いに ただ溶けゆくばかり
ちいさい精たちが その中に
うっすらと狂気を まき散らしてゆく





自由詩 春の分泌系 Copyright 塔野夏子 2013-04-29 11:16:38
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