漂着物
ただのみきや

この夜の向こう

蒼白い悲しみに凪いだ街から

漂着した片言に縁どられ

幽かに像をなす空白

難破した夢

偽りという救命胴衣を着けずに

真実という黄金を抱いたまま

眩い深層に沈んで行った

あなたの 

存在しない死体

蘇生しようとして

唇を押し当てるもの

闇がその指先で輪郭をなぞると

かつて発せられたことばの幽霊たちが

夜の底を周遊する鮫のように

静かに無限大を描き

時の流れを相殺する時計となる

だが月がすっかり溶け落ちて

世界が瞼を閉じるその瞬間

わたしは光の中に覚醒し

すべてを失ってしまうのだ

この腕の中にあったはずの感覚も

記憶とともに次々と

煙のように霧散する

そして微かな痛みと

顔のないイメージの残像

透明な消失感だけが石灰化する

切れ切れで

たどたどしい

寄木細工をたとえ

倉庫いっぱいにこさえてみても

満たされることはない

心は夜の汀に佇み

聞こえないものに耳を傾け

見えないものに目を凝らす

この空白を浮き上がらせる

漂着物を捜している




自由詩 漂着物 Copyright ただのみきや 2013-04-26 22:54:09
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