夜の底
日雇いくん◆hiyatQ6h0c


 夜中、眠れないので散歩に出かけた。
 とぼとぼ歩き、やがて近所のやや大きめな公園の方へ出た。
 すると。
 「んっ……」
 目の前にあやしい地上絵があった。
「何を意味しているんだろう……」
 それは、ジャングルジムやすべり台などの遊具が固まっている場所の前の広場に書かれていた。
 おおかた子どもが遊びで書いたものなのだろうが、それにしては妙に巧かった。
 しばらく見ていると、似たようなものを二つ思い出した。
 一つはあみだくじ、もう一つはマインドマップだった。
 すっかり一時的な話題となった感のマインドマップだが、はじめて見た時、あれにものすごく嫌悪感を覚えたものだ。
 どうしてかはわからない。
 なるべく拘束のない状態が好きだから、そういうものに左右されたくなかったのかもしれない。
 それに比べてあみだくじは好きだ。
 若いころ土方をやっていた時、朝事務所に集まったはいいものの、集まりすぎて人工(にんく)が余り、誰かがその日の仕事は諦めてもらわなければならないといったことがあった。
 その場合、そこのえらい人があみだくじを作り、その日現場に行く奴を決めたのだ。
 そういうとき、なぜか90%以上の確率で仕事に行けていた。
 しまいには「おまえは今日はあみだにも参加するな」と言われ帰らされたこともあったりした。
 そんな古きよき思い出のせいか、気が向いて下から先をたどってみた。
 いきなり左に行くと枝分かれがないので、最後まで行ってしまって面白くないからまず右、次に左、そして右、左と辿った。
 すると火の玉のような絵にたどり着いた。
「火の玉か? 小野正一を思い出すな」
 野球の本でしか見たことのない伝説の投手を思いながら、しばらくぼうっと絵をみた。
 すると、その先の草むらの底から、いきなり、ぼわっと、白いものが浮かんだ。
 幽霊か?
 まだ春先なのに早いんじゃないか?
 思いながら少し驚いたが、何かすぐにわかった。
 草むらよりすこし遠くの方で、どこかの家がカーテンを開けていたのだった。
 周りが暗かったので、目が暗闇に慣れていて、眩しかったというだけだったのだ。
 火の玉の絵をみていたのとタイミングが合い、思わず口元が緩む。
 まいったなあと頭を掻きながら、散歩に戻った。


散文(批評随筆小説等) 夜の底 Copyright 日雇いくん◆hiyatQ6h0c 2013-04-26 05:04:54
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