夢の行方
salco

雨がたくさん降って来て
空も窓も塞いでしまうから
わたし達
砂漠の夢を見ていましょうよ 
と女は言い
男と一緒に目を閉じます

でも、雨の音がするね
男が言いました
わたしはもう流砂の音を聞いていてよ
と女は言い
少しずつ
乾いて乾いて行きました

月の誘う夜は歌のよに
旅の王と妃になりましょう
きっとたいそう冷えるから
天幕で言葉を数えて眠りましょう
宝石のような言葉だけ
絹糸のような言葉だけ
言うと女は眠りに入って行きました

それで心を飾り立て
織って体にまとうのかい?
男は微笑んで
柔らかな傲慢を撫でながら訊きましたが
返事はありませんでした

そうやって百年ばかり経ちました 
本当だ
砂の流れる音がするよ
男は涙を流します
あとからあとから滴の染みが広がって
枕覆いを濡らします
しかし女は灼熱の砂漠にいるのですから
届きはしません

寝息を立てる温かな体を引き寄せながら
覚めた時
長い長い黒髪だけが頬に触れ
枕に残っておりました
夜のように冷え冷えと
川のように素っけなく

優しいのはその花びらのような肌だけだった
おまえはいつもこうして俺を不幸にする
そんなおまえを
俺は一度も幸せにできなかったのだと
わがままで美しい
白い花のようであった女を思い
遙かな砂の国で一片の骨になった女を
呼び戻せないかと
こうして男は慟哭し続け
今日も雨がたくさん降って来ます


自由詩 夢の行方 Copyright salco 2013-04-21 23:33:14
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