風
木屋 亞万
漠然とした砂の続く大地
平らな線が限りなく遠くに
つなぎ合わせればおそらく丸い
砂の山の起伏もさらなる飛翔の末
なめらかな肌になるのかもしれない
女の柔い背中の上を飛んでいる
細胞の一つひとつの核がぼこぼこと出張る
何一つ立ち上がるものはない見渡す限りに砂
なめれば甘そうな白は滑らかで
骨の粉末を血で浸したものを吹き荒らす風
むべむべと山風が故郷を失い錯乱すれば
ひりひりとした緊張のなか空気がかわいていく
あたらしい日を浴びて白けていく愛
砂嵐に埋もれてしまったテレビスターには
灰色のノイズ以外なにも残らない
風に戦いを挑んだ飛行気乗りは
無防備に空を泳いで順風満帆さえ命とり
無邪気な風にへし折られた骨を数える
風には何語も通じない
いかなる刃も弾丸も役に立たない
どれだけ石を積み上げたところで立て板に水
背中のくぼみの真ん中で煙をあげて壊れる機体
折れた骨の残骸に埋もれて
澄んだ夜空にまでこびりついた砂粒を見る
吹き止まない風と戦って得るものは何なのか
思考の跡すらさらさらと砂に消されて
ちいさな粒子のつぶに埋もれる
もうこれで私は砂のように微小な
そして砂漠のように漠然とした存在
吹き止まない風となって世界をぐるぐる回り続ける