金時
……とある蛙

足柄山の中腹に
大きな栗の大木が
その巨木の瘤の中
蔓で編まれた黒い籠
籠の中には麻の布
布に包まれ赤子が一人
黒々とした髪を持ち
大きな体に漲(みなぎ)る精気

山の端,やまやま、隅々まで
響き渡る泣き声が

泣き声が木霊する
泣き声が山彦する
泣き声がこだまする

熊一頭が乳飲ませ
子熊二頭を黙らせる

須佐やスサ
スサや須佐 

おまえは誰の養い子
おまえは誰の養い子
童子の姿は何のため
鬼はお前を憎まない
お前のことなど知りもしない
それでもお前は鬼ごろし

須佐やスサ
スサや須佐 養い子

本当はお前が鬼の子か
お前は本当の鬼なのか
鬼が涙を浮かべても
平気で腕をもぎ取って
苦しみもがくても
平気のへいざ
鬼の足を引きちぎり
鬼が頭を擦り付けて
懸命に泣き声で命乞い
それでも平気で鬼の首
ぼこっと平気で引っこ抜く

須佐やスサ
スサや須佐 養い子

お前は本当は何の子だ


自由詩 金時 Copyright ……とある蛙 2013-04-16 13:16:38
notebook Home 戻る