逆上がり
殿岡秀秋

体育の授業でできなかった
隣に座る女の子が休み時間に
ぼくを誘ってくれた
ふたりで校庭をはしって
鉄棒につかまり
練習を始めた

雨の降らない日は
休み時間のたびに
ふたりで鉄棒をする
ある日両足で地面を強くたたくと
腰が浮きあがるのが感じられた

鉄棒を両手でつかみ
両足を空につきさす
頭がいったん落下してから
勢いよく空へあがり
鉄棒を軸に回転して
からだが浮きあがる
二階建て木造校舎が低く見え
頭から足の先まで力が抜けていく

女の子も同じころにできた
両腕を支えにして鉄棒の上で
二人で微笑みを交わす
青空に浮かぶ雲が
白い綿帽子になって
女の子の頭にのるのを
想いだすたびに
心のなかでありがとうと言う

仕事の後で合気道の稽古に行く
続けていくと
薄紙を重ねるように
身についていく

力みをとろうとして
工夫を重ねるが
からだの奥まで
緩ませるのは難しい

修練を重ねてぼくのからだは
はじめたころの動きとは
比べものにならないほど軽やかになり
投げを受けて
空に跳ぶ

心から言葉の糸を紡ぎだして
日々組み合わせていくと
糸の色を活かした模様を
織ることができるようになり
悲しみが
美しさに
茜雲のように彩られる



自由詩 逆上がり Copyright 殿岡秀秋 2013-04-15 04:15:43
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