最終列車
村正
生まれた時から軋みを聴いている
トンネルばかり走る列車の足音だ
時々思いがけない景色が見えて
映した窓を切り出しては
懐かしい無人の駅に送る
随分と乗り換えないでここまできた
切符をくれた女性とは幼い頃はぐれた
彼女に似てしまったのだろう
席を譲っては壁にもたれている
あと少しありふれた車両に居座りたかった
列車は不規則に走っていく
降りたい駅もたくさん見つかったが
そんな時に限りドアが手動だった
開かないドアへの注意なんて
最初からないのかもしれない
見知った顔が個別の車両に乗っていく
そして各駅停車は減っていった
「一人に慣れても独りで乗らないで」
ありふれた車両でみな学ぶのだ
知っていたというのに
少しだけ相席に座った少女は
トンネルに飽きてホームへと急いだ
捨てない切符だけ持って
脱線しない保障はないし
ブレーキだっていつか壊れてしまう
乗り換えの案内はデタラメだった
再会は約束されたりしない
諸々を知る由もなく列車が走る
軋みには随分慣れてしまった
トンネルばかり走る列車の足音だ
どうやらこれが最終列車らしい